伊藤潤二作品との出会いは新宿のカプセルホテルの談話室の、やけにマニアックなタイトルが並ぶ本棚の一角で見つけた『富江』であった。その耽美な絵柄と不条理な内容は新宿の奇妙な一夜とともに心に刻まれた。刻まれはしたが、ディープなエログロナンセンスの趣味がなかったので、その時はその良さを理解できなかった。
伊藤潤二作品のユーモアがハマったのは猫エッセイ漫画『よん&むー』である。
怪奇な絵柄と愛らしい内容の妙にだいぶ笑った。
オムニバスアニメ『伊藤潤二コレクション』第1話Aパートの「双一の勝手な呪い」も『よんむー』と同じく怪奇な絵柄と愛らしい(この場合はおバカな?)内容のギャップ楽しい作風である。
一言で言えば、陰気なくせに自信過剰な小学生・双一が、ガチの呪い能力で周囲に迷惑をかけるという話である。
簡単にしか言わなかったのは、先にも書いた絵柄とのギャップのシュールさで笑いを取っていくスタイルなので、文字だけにしては意味がないからである。
それだけそのギャップが凄まじい。
ホラーやエログロが苦手な人もこのAパートまではぜひ観ていただきたい。
CV三ツ矢さんの名演技も相まって、双一が段々愛おしく見えてくるから不思議なものだ。
怪奇でどこかユーモラスであるのが伊藤潤二作品の魅力であるが、これはユーモアに全振りしたお話である。機会があればぜひ漫画に手を出したいものである。
さて、ホラーとエログロが苦手な諸氏はここで一旦以降観るかどうするかを悩んで欲しい。オープニング映像から感じた不快感が強い方は、ここでやめたほうが賢明である。
3話まで視聴した個人の感想であるが、
1話B「地獄の人形葬」、2話B「長い夢」、3話B「蛞蝓少女」は、グロの割合が強くトラウマ度が高い。
とくに「長い夢」はグロに加えて、ストーリーの組み立てが上手いが故か、視聴後の不安感が抜群である。寝る前には絶対観たくない。
「人形葬」と「蛞蝓少女」はストレートにグロい。どちらかと言えば「蛞蝓少女」のほうがツッコミどころがある分楽しめるかもしれない。
わりと洋物ホラー寄りなのが2話A「ファッションモデル」である。これは、冨樫義博作『HUNTER×HUNTER』のヒソカでお馴染み?の淵さん登場回である。
3話B『四つ辻の美少年』はホラー度が強い作風である。グロさも若干控えめなので、怪しげな辻の風景、主人公やヒロインらキャラクターの耽美な容貌も落ち着いて堪能できる。ストーリーとしてもまとまっているので一番観やすいのではないだろうか。
話はそれるが、最近、起承転結の結部分にはっきりとわかりやすいオチがないものに対し、投げっぽないしでつまらない、手抜きであるという批判をネットで見かける。
全ての作品にはっきりとオチを求め解明したがる風潮はいかがなものか。
ことホラーに関しては、因果応報ものならともかく、結果を提示しないことで起こる、正体が分からないものへの恐怖というのも大きな魅力であると思う。テレビで心霊写真なんかについて霊媒師が片っ端から原因を説明しているのを見ると特に。
寄り道しすぎちゃった。
話を『伊藤潤二コレクション』に戻す。
伊藤潤二作品を雰囲気を壊さず映像にするのは難しいように思うが、この作品ではかなり成功しているのではないだろうか。とくにキャラクターは、元絵の美しい(または気持ち悪い)繊細なタッチが絶妙に再現されている。
それもそのはず監督とキャラクターデザインは田頭しのぶである。
田頭さんを知ったのは『ハンター×ハンター(1999年)』の作監としてであった。彼女の絵はハンターアニメで1・2を争う美しさ(セル画当時は作画監督によって毎回絵柄が変わっていた)で特にテレビ版最終回が素晴らしかったように記憶している。繊細で丁寧な、そこはかとない色気のある絵を描く人だという印象だ。
ますます今後放送されるであろう「富江」回が楽しみである。
オープニングやエンディングも秀逸なので、きっとセンスがあるスタッフが集結しているのだろう。
ホラーやエログロに耐性がある人は、観て損はない完成度の高い作品である。
しかもオムニバス形式なので見逃しても大丈夫!
冬のホラーも乙なもの。
この機会にぜひ伊藤潤二ワールドを体験してみては?
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