ドラえもん短編映画最後の一本は、まさかのジャイアンが主役である。
これは隠れた名作。
ジャイアンの男気が堪能できること請け合いな、ジャイアンファンにはたまらない一本である。
メインはジャイアンとジャイ子。
ドラえもん、のび太、しずかちゃん、スネ夫は登場しますがあくまでもわき役としての役回りである。こんなことができるのが円熟期のドラえもんの良さであろう。
雪のシーンで、ドラえもんがジャイアンの気持ちを慮った道具を出すところなど、大山ドラえもんののび太たちより少し大人の視点を持った所謂保護者的な立ち位置が顕著に表れている。
今挙げたジャイアンの気持ちを汲むドラえもん、原稿を探してくれた仲間の友情に感謝しつつ迷惑をかけまいとするジャイアン、またそんなジャイアンを理解して最後までそっと見守るドラえもんとのび太。
あえてセリフにせず、登場人物たちの相手への思いやりを行動で示すことこそアニメや映画の本懐ではないだろうか。そういった演出がこの作品では実に光っている。また小道具や表情、間で感情の機微を表現することについてもこの映画は一級であるだろう。
妹に好きな男ができた→それを知った兄が妹への愛情ゆえに怒り狂う。
これはよくあるコミカルでわかりやすい演出であるが、この映画ではあえてその簡単な表現方法を取っていない。
もて君(ジャイ子の想い人)に対して、まずジャイアンは相手の真意を確かめようとしている。そしてジャイ子の気持ちを知るやショックもあれど自分のエゴを押し付けず(基本的にジャイアンの愛はから回っていますがw)、黙って後押ししようとするのである。
前述したよくある演出では兄が自分の気持ちを整理して妹を応援することでその気持ちの変化がクライマックスになるのだが、この映画では最初から兄は自分の気持ちよりも妹の気持ちを優先する。妹を導き守る立場としてもぶれることがない。この映画は互いを思いやる兄妹の気持ちのすれ違いに軸を置いている。
このわかりづらく地味な展開を短時間で魅せる制作陣の力量は見事。
最小限かつ象徴的な道具使いとドラえもんの活躍、ジャイアンの漢気の若干古臭さを良いものであると同時にコミカル要素としても活用したのか、落語や丁子木などの小道具がいい味出している。
ジャイ子たちを目撃したしずかちゃんの動きが個人的にツボだった。
また、エンディングのダ・カーポの歌声が映画の内容も相まって優しい気持ちにさせてくれる。
最後、ジャイアンの映った写真を直す、指輪をはめた女性の手はおそらく大人になったジャイ子のものか。グッとくる素敵な演出である。
いやー、やはりジャイアンこそアニメ界の理想の兄キですね。
ジャイアンファンはぜひ見るべき一本。
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