エウレカの憂鬱

音楽、映画、アニメに漫画、小説。好きなものを時折つらつら語ります。お暇なら見てよね。

【漫画紹介】『ハイスコアガール』我が愛しの90年代ノスタルジー

90年代があの頃の仲間入りをしたのはいつだったろうか。 

私の話になり恐縮だが、小学校から中学校時代を丸々過ごした90年代は、バブル崩壊阪神大震災オウム事件、雲仙の大噴火など暗い出来事ばかりが記憶に残る一方、アニメやゲームなどの表現分野では随分と恵まれた世代でもあったように思う。


近所の駄菓子屋にはストリートファイターⅡなんかの筐体があって、友達の家のゲームソフトではみんなで格闘ゲームや人生ゲームをやったものだ。

このハイスコアガールの舞台も、そんな90年代になる。


勉強も運動もイマイチで劣等生の烙印を押された主人公のハルオだが、アーケードゲームの腕にかけては「豪指のハルオ」と自負するほど唯一とも言える特技だった。ゲーセンのみが生き場所になっていたハルオだが、ある日馴染みのゲーセンで同級生の金持ち万能美少女大野に遭遇、得意のスト2で勝負するも大敗する。追い詰められたハルオはついには禁忌のハメ技を使って大野にキレられ殴られる始末。

そこからハルオと大野の因縁が始まる。

この物語は劣等生でゲームセンターだけが居場所のゲーム狂ハルオ、そして同じく家庭環境からゲームのみが心の安らぎだった大野、この二人の成長と淡い恋心を、小中高校を通して壮大なゲーム愛とともに描く青春ストーリーである。

 

●等身大の90年代描写

この作品は、90年代を知る者にとっては恐ろしくこそばゆい描写が随所に入れられている。

例えばマジ?という言葉をあの頃なぜかマジキ?と言っていた。死語としても残っていないレベルの存在すら忘れていたこの言葉だが、作中で見たときには当時の記憶を蘇らせ、懐かしいというより小恥ずかしい気分にさせられた。まるで小学校時代の自作ポエムを読んでしまったときのように。

ストツー、サムスピ、駄菓子屋に置かれた筐体、ポリゴン、スーファミからセガサターン、プレステと進化するゲーム機。

持っているゲーム機で格差が生まれた90年代。みんな誰かの家に行ってコントローラーを奪い合っていた思い出。

愛しさと切なさと心強さとが流行り、篠原涼子が吉本芸人ではないと知った衝撃(ダウンタウンのごっつええかんじというコント番組にレギュラー出演していたのだ!)。

ゴルビーJリーグ湾岸戦争クリントン大統領、プリント倶楽部(プリクラの初期形態)、たまごっち、そしてエヴァ。彼らの成長物語の隙間隙間に配置された当時の風俗によって、なんとも言えないノスタルジーを感じさせてくれるのがハイスコアガールの大きな魅力である。

ちなみに00年代以降の人が見るとどんな気分なのか興味がある。

 

●愛おしいキャラクターたち

ミスミソウ」の記事を書いたときにも言ったような気がするが、押切蓮介の絵は個性がものすごく強いもちろん漫画家として賞賛されるべきことであるが、好き嫌いが分かれるところでもある。そして慣れるまで時間はかかるかも知れないが、慣れたらクセになるタイプである。

ビジュアルもさることながらこの作者は内面描写に関しても手を抜かない。

ゲーム少女大野とハルオに恋する小春のとんでもない可愛さについてはすでにほかの方の記事で山のように描かれていると思うので、ここでは奇をてらって主人公ハルオの魅力を紹介したい。

ハルオはいわゆるゲーム好きのゲームオタクであり、中学以降では小春ちゃんと大野の二人の美女から想いを寄せられる羨ましい男である。

平凡なハルオがハーレム漫画のように女子にモテるのが疑問に思えるかもしれないが、ゲームなりアニメなりオタクという人々が今よりよほど肩身が狭かった時代、自分が良いと思うものをはっきりと良いと言えるその男らしさ、そして好きなものに打ち込む真摯さは十分に魅力的である。

しかもそれだけでなく、ハルオは自分に厳しく、人を思いやれる人なのだ。

大野と同じ学校へ行くためにゲームを封印できる根性。朝夜のバイトでちゃんとお金を稼いで家に入れたりする思春期にあるまじき素直な家族想い。

大野の息抜きのためにお手製ゲームを作ってあげたりする想いやり(そのくせに恋愛には疎いが)。しかも滅多に悪口を言わない。(作中きってのヒールである萌美先生に対しても、仕事で厳しくしているだけなのだと大人な理解を見せた)。

ゲームバカで心の機微に疎くて冴えないハルオだが、こういった漫画的な派手さはなくとも実際の人間にあって最大の魅力を描くことで大野と小春の想いに説得力を持たせている。


ハルオの成長を縦軸に物語が進んで行く本作品。たとえゲームと関係がない場面であっても、彼の心の中ではガイルをはじめ、沢山のゲームキャラクターたちが背中を押して相談に乗ってくれる。

ゲームを通して人間として成長していくハルオをいつのまにか応援したくなるそんな作品なのである。

 


●胸キュンの恋愛描写

もうこれは読んで体感してもらう他ないのだが、ハルオと大野のピュアなお互いを想う心、小春の健気な想いなど、恋愛漫画に必須の直接的な愛情表現を極力控えた恋愛描写が魅力である。せっかくのラッキースケベチャンスを無駄にするハルオに憤慨する読者もいるかもしれないが、むしろリアルでキュンキュンしてしまう。


●まずは1巻を読むべし

ハイスコアガール は9巻現在小学校から高校までのストーリーとなっている。その中で小学校編とも言える1巻は、一冊のみで考えると近年稀に見る完成度である。1巻のジュブナイルのようなノスタルジーと爽快感、最終話で覚えたなんとも言えない切なさはぜひ体験してほしい。

この漫画が合うかどうなのか1巻をみて判断すればいいだろう。

もちろん2巻からも面白いぞ。


ハイスコアガールはいいぞ

次回10巻で最終回を迎えるハイスコアガール 、今回も大変気になるヒキで続いており時間が狂おしいほど待ち遠しい!

現在アニメも絶賛放映中であり、実際のゲーム画面を使用した対戦シーンは大変見応えがある。大野も可愛い(ハルオの声とキャラデザとオープニングは個人的にイマイチ)。とはいえ一度やらかして流されたアニメ化なだけに感慨深い。

スト2をやった人も00年世代以降の人もこの機会にぜひ一度押切ワールドを体感してみてほしい。


ちなみに川崎のウェアハウスでは初代ストリートファイターを体感できるので興味があれば行ってみてはどうだろうか。ここは電脳九龍城といって建物自体がかつて香港にあった巨大スラム九龍城砦をものすごいクオリティで再現している。ゲーマーでなくても訪れて損はない場所であるというプチ情報で今回は締めるとする。

 

ハイスコアガール 好きさんにおススメ

でろでろ…押切先生の作風が気に入ったら是非読むべし。ホラーギャグ。

ピコピコ少年…押切作品の作風が気に入ったら是非読むべし。ハイスコアガール よりもさらにゲーム愛に溢れた同氏のエッセイマンガ。


押切漫画ばっかになった……。

ですます調を使わないのだんだんストレスになってきたゾ!