エウレカの憂鬱

音楽、映画、アニメに漫画、小説。好きなものを時折つらつら語ります。お暇なら見てよね。

【漫画紹介】『彼方のアストラ』極上のSFミステリー

『彼方のアストラ』がこのマンガがすごい一位になったそうな。

既読者からすると当然の結果なのだが、この機会に多くの人に知ってもらえるというのは嬉しい。

これを機に今まで書こう書こうと思って下書きに眠っていたこの感想をあげちゃおうと思う。

 

あらすじ

『彼方のアストラ』は、篠原健太作のSF漫画である。

近未来、宇宙キャンプのため惑星マクパに向かった高校生たちだが、到着した現地で突然謎の球体に襲われて宇宙空間に投げ出されてしまう。偶然見つけた宇宙船アストラ号に乗り込み、彼らは故郷を目指す冒険を始める。

ここまで見て、なんてことはないありきたりなあらすじと思った方もいるかもしれないが、とんでもない。

この『彼方のアストラ』はストーリーメイキングにおいて、近年これほど気持ちの良い漫画はないと声を大にして言えるほど完成された作品である。


魅力1

練り尽くされた極上のSFミステリー

先ほどのあらすじを見ると、この作品が宇宙を舞台にした十五少年漂流記と思いがちだ。もちろん高校生たちが協力して困難に乗り越えて冒険を重ねて行くという宇宙漂流ものとしてもたいへん面白く作られているが、作品の醍醐味は、あらすじからは予想できないほどの緻密に伏線を張り巡らされたSFミステリー部分と言って良い。

アストラ号で故郷への旅を始めた主人公たち。そもそも彼らを襲った球体とは何者なのか、一体何の目的なのか、仲間の中に裏切り者はいるのか。

全5巻と読みやすい巻数にもかかわらず、序盤から伏線が幾重にも重ねられており、全ての謎が解き明かされる物語終盤の大どんでん返しにつぐ大どんでん返しはもはや圧巻の一言である。

伏線の張り方がとても丁寧で緻密であるため、注意して見ていれば真実にたどり着けるようになっているところもミステリーとして秀逸。


魅力2

魅力的なキャラクター

篠原健太の前作『スケットダンス(全32巻)』でも人間味あふれる魅力的な登場人物が多く出てきたが、そのキャラクターメイキングは今作でも健在である。

キャラクター、とくに主人公たち9人はしっかり掘り下げられており、読み進めていくうちにどんどん魅力的になる(週刊連載でないので絵のクオリティもぐんぐん上がってくる)。特に女性陣はどんどん可愛くなっていくので、セクシーな宇宙服と合わせて必見である。

ちなみに、わたしの推しキャラは、イケメンだけど変人のシャルスと、デレたキトリー。

 

魅力3

ワクワクの宇宙大冒険と青春劇

SFミステリーの部分を除外した普通の冒険ものとしても楽しめる本作。主人公たちが訪れる未知の惑星の生態など設定が凝られていて楽しい。

まるで一緒に旅をしているかのように感じるのもこの作品の魅力である。

 

魅力4

コメディとシリアスの絶妙なバランス

どこかアンバランスな部分やさじ加減のズレが時折気になった前作スケットダンス(基本はすごく面白いよ)の弱点が、今作ではみごとにブラッシュアップされている。シリアスからコメディへの自然な流れや、散りばめられたギャグの物語を邪魔しない絶妙なセンス。読んでいて飽きることがない工夫がこれでもかと詰め込まれており、やはり技量の高さにただただ感動である。

 

おわりに

物語には丁度良い関数というものが決まっていると思う。長さと内容においてこの作品ほど無駄がない作品はなかなかないのではないだろうか。

複雑な物語でありながら、それでも少年漫画として爽やかに展開していく心地よさ。スケットダンスにも感じたことだが、この作者の作品には人の持つ善性とでもいうのだろうか、優しさや真っ直ぐであることの素晴らしさが恥じることなく堂々と描かれているように感じる。

提示された全ての謎がどんどんと明かされ、伏線が解決していくことで感じる小気味良さと爽快感をぜひ味わっていただきたい。

 

読んで絶対損はない!