エウレカの憂鬱

音楽、映画、アニメに漫画、小説。好きなものを時折つらつら語ります。お暇なら見てよね。

【映画感想】『メイド・イン・ホンコン(香港製造)』

90年代香港は子供ながらに憧れの街だった。原色のネオンの看板、夜も眠らない高層ビル群の夜景、魔窟・九龍城砦、カンフースター、アジアであってアジアでない大都会。大人になって初めて訪れたときのあの高揚感は今でも忘れられない。ただその時すでに返還を終えた香港には、九龍城砦もビル群に飛び込むジェット機も無かった。その後何度か訪れたがその都度街の気配を少しずつ変え、前回などは空港にデカデカと「一帯一路」のスローガンがかけられ、もはや香港が香港ではなく中国の一部なのだと認識せずにはいられなかった。三年前のことである。

以来私の中の香港は、もはや実在ではなくノスタルジックな一つの幻想となってしまった……。

 

なんちゃって。

ちょっと叙情的になってしまった今回、香港返還の年に公開された『メイド・イン・ホンコン』という青春映画の感想を書きたい。

 

この作品は、中学を中退しヤクザの手先として借金の取り立てをするチンピラの少年チャウ、チャウの弟分で知的障害を持つが故に迫害を受けるロン、取り立て先で出会った少女ペンの3人の友情を、底辺層の若者の苦悩や返還直前の香港の喧噪とともに描いた瑞々しい青春映画である。

フルーツチャン監督ら5人の製作陣が作り上げた低予算の映画であり、そのチープさや抑えの効かない映像効果のおかげか、不思議な浮遊感と当時の香港の生々しさを同時に感じさせてくれる映画だ。

父親は他所で女を囲い、母親も家出という悲惨な家庭環境にあるチャウは、チンピラだが弟分のロンの世話を焼いたりするような心根だけは曲がっていない少年である。そんなチャウだが、ペンが実は腎臓の病で余命の少ないことを知り、彼女を助ける金を手に入れるため、ヤクザの殺しの仕事に手を染めようと決意する。

悲惨な境遇にもかかわらず、笑って恋して友情を育む少年少女の、ひりひりとした叫び、喜び、悲しみが胸を打つ名作。

今だからこそ、ぜひ。

余談だが、主演のサム・リーは、その後日本の実写映画『ピンポン』でチャイナ役を演じているぞ。

本作がデビューであるサムの私服をそのまま使用したチャウのファッションがすごく90年代の香港的で(?)オシャレなので、透明感のある映像美と合わせてそちらも要チェック。

 

返還当時の香港を知りたい方は、このルポもおススメ。当時の香港に暮らして書いただけあり、返還を控えた人々の生活や心情がよくわかって面白い。

転がる香港に苔は生えない (文春文庫)

転がる香港に苔は生えない (文春文庫)