エウレカの憂鬱

音楽、映画、アニメに漫画、小説。好きなものを時折つらつら語ります。お暇なら見てよね。

【映画感想】『野火』

塚本晋也監督の『野火』。

8月15日なので戦争ものをという謎の義務感でprimeで見つけたこの作品を視聴。前評判にビビりつつ見たが、やはり前評判通りだった。

フィリピンのジャングルで飢餓と銃撃の恐怖のなか彷徨う主人公を追う本作、敵が潜むジャングルにおいて死体に囲まれ飢餓に苛まれ狂っていく人間性の描写も秀逸で、ガリガリに痩せ、歯もかけ、誰が誰かわからないほど真っ黒に汚れた演者の鬼気迫る演技も相まって凄まじい。

生々しい死体描写や銃撃のときの血塗れの描写は目を覆うものであり、全編を通して正直に言うと気持ち悪さを抑えられないほどグロテスクで残虐である。

ただスポンサーさえつかず自費で制作した監督が、戦争の恐怖を後世に伝えなければならないという想いのもと制作した作品であるらしく画面から滲み出る執念は凄まじい。

英雄もおらず敵もよくわからず、ストーリーラインも曖昧で、ただただ苦しい1時間20分である。

ただし、私は見たことを後悔していない。

むしろ見てよかったとさえ思う。

これほど苛烈なきつい描写の映画は見たことないが、本物の戦争はこれすら比べ物にならないくらい恐ろしいものだったのだろうと想像する。

私が見た数少ない戦争映画の中でも、「戦争はなぜいけないのか?」の問いにさまざまなアプローチがあった。

現代人の感覚で主人公が反戦を声高に叫ぶものがある。しかし戦争を経験した世代ならば話は別だが、経験していない世代が作るならば私はセリフによる説教は上滑りをしてしまうのではないかと危惧している。

思えば子供の頃見た『はだしのゲン』や『火垂るの墓』を見たときの映像的な恐怖が、戦争への嫌悪感へと繋がっていた。原爆や空襲という恐ろしいことが起こる戦争はいけないものだと素直に思えたのである。

この映画はただ純粋な戦争の凄惨さ、恐怖を極限まで高めて映像化していることに意味があると思う。

世界情勢を知るにつけ、純粋に戦争はいけないと言えなくなってしまった人は多いのではないだろうか。

でもマクロで物事を判断する以前の人としての根本的な部分で戦争の暴力を、理不尽を忌避する心が「戦争はなぜいけないか?」の答えだと思う。

そういった意味でこの映画が、一言の反戦メッセージもないまま、強烈な反戦映画としてひとつの極みに達していると感じた。

戦争を知らなければならないという思いを持つ覚悟ある人だけは見てほしい。

ただしグロ耐性が無い人は絶対に見ない方が良い。絶対にトラウマになる。

かくいう私も、もう二度と、頼まれても見たく無い。

絶対に。

 

絶対に。

 

 

野火

野火

  • 発売日: 2016/05/12
  • メディア: Prime Video