過酷なロードレースが行われるアンダルシアを舞台にした人間ドラマ。
監督はスタジオジブリで作画監督として数々の作品を手掛けてきたベテランアニメーターの高坂希太郎。
1時間弱の短い時間の中で、
図らずもかつて背を向けた故郷のアンダルシアを、もっとも避けたかったタイミングで訪れることとなった、ロードレーサーの主人公ペペの故郷への葛藤を、ロードレースという形を借りて言葉に頼ることなく見事に描いている。
原作は未読なのだが、この映画を見ると毎回茄子のアサディジョ漬けを食べてみたくなる。すごい旨そう。
果てしなく続く荒野のロードレースという下手をすれば単調になってしまう舞台を、動きや構図の巧みさで飽きさせることなく演出。コメディな仕掛けも随所にあるので重くなりすぎることもない。
さらにレースの孤独感・緊迫感が増す後半戦、ラストスパートのデットヒートなど、こちらまで力が入り画面にのめり込んでしまうほど作画の力も素晴らしい。
ナチュラルな音楽の使い方も好印象。
スパニッシュギターの調べが乾いた荒野の映像と合わせてスペインらしさを醸し出し、孤独な戦いを続けるペペの心情を雄弁に語る。小林旭の「自動車ショー歌」を忌野清志郎がカバーしたエンディングも小気味よくgood。
もっとも好きなシーンは、酒場の親父フェルナンデスが歌うあのアンダルシアの歌の場面。
無骨な歌声が、レースの熱をそっと冷ますように暮れゆくアンダルシアの荒野に響き、そこからペペの心情へと重なってゆくあのシーンの素晴らしさ。
越えたかった兄。
かつての恋人。
逃げ出した故郷。
がむしゃらに走ってきた人生。
故郷と向き合い、背を向けていた過去を人生の一部として受け入れるペペ。
苦にばしった深みのある余韻がこの映画を静かだが印象的なものにしている。
主人公ペペの声を演じたのは大泉洋。これが素晴らしくマッチしていた。
余談だが、監督は水曜どうでしょうのファンだそうで、続編のスーツケースの渡り鳥では、同番組ディレクターである藤やんとうれしーが友情出演している。
青空とアンダルシアの大地
歌と踊りと人々の朗らかさ
悲喜こもごもの人生の素晴らしさ
爽やかな余韻を残す良作。
オススメです。