エウレカの憂鬱

音楽、映画、アニメに漫画、小説。好きなものを時折つらつら語ります。お暇なら見てよね。

【漫画感想】『不滅のあなたへ』壮大なモラトリアムの物語

不死身の存在フシと、彼が遭遇する人々の生と死。生と死を通してフシは少しづつ生きることを学んでいく。
これは生きるとは何か、人間とは何かを描いた叙事詩

 

第1章 孤独な少年との邂逅
フシ(この時点で名前はないが便宜上この名で呼ぶ)の誕生から雪に閉ざされた世界で、たったひとり生きる少年とその飼い狼の姿を写し取ったフシとの出会いを描く。少年は食料を求めて旅立っていった仲間の帰りをたった1人で何年も待っている。おそらく食力不足による集団移住があり、少年を含む弱者は捨てていくという判断がなされたのだろうか、ひとりきりになった少年には他に縋るものはなく、仲間が帰ると自分に言い聞かせて生きている。飼い狼のジョアン(の姿をとったフシ)が帰ってきたことで彼はとうとう仲間を追い旅立つ決心をする。彼とフシは雪の中を意気揚々と進むが、やがてその先で少年は仲間が滅びた痕跡らしきものを発見する。それまで悲惨な境遇にも関わらず全てを(おそらく意識的に)ポジティブに捉え、そんな孤独のなか気丈に明るく自分を励ましてきた少年の心がこの場面でとうとう折れてしまう。
この瞬間からが1番見ていて辛い。
彼は初めて弱音を吐き、家に帰りたい(この旅立ちと帰巣というのもテーマの1つなのではないかと予想している)と告げる。
そうして心も体もボロボロになり家にたどり着いた少年だが、旅で負った足の傷が膿み腐り、あるいはそれが原因で感染症にかかったのか、死の床につく。自らの最後を悟った少年は、ジョアンとなったフシに自分の存在を覚えていてほしいと伝え、椅子に座り仲間を待つように息絶えるのである。
少年の最後の矜持が辛くもあり美しくもある。

この物語の救いは死後の描写があることで、少年の魂がなかまやジョアンに逢えたことを示してくれている点である。
この魂の邂逅で少年が名乗るシーンがあるが、そのセリフは意図的に消されたと思われる。
それはなぜか。
フシにとって少年は、一個人ではなく、人間という概念の全てである。この名を伏せる描写はそういった意味を持っているのかもしれない。
少年の姿を写し取って歩き出すソレとそれを見送る、まるで疲れて休んでいるかのように椅子に座る、息をひきとった少年の亡骸。
フシが人間として生まれた瞬間であり、少年が不滅の存在となった象徴的なシーンである。

第2章 母なる存在・マーチ
ニナンナの生贄の少女マーチと出会ったフシ。前章が誕生のシーンだとしたら、今章に描かれているのは母である。可愛らしい少女マーチの夢はママになること、生贄にされた彼女だが得体が知れないフシ(まだ名はない)に不死身だからという理由でフシと名付け、山の主と言われ恐れられ、人間に酷い目にあわされていた怪物熊オニグマを慈しむ。彼女の最後は友人のパロメを庇って矢に射抜かれるというものである。自分を犠牲にしてなにかを守ること、これも母を象徴している。
マーチの魂に寄り添うオニグマの魂、大人になったマーチの幻想(2巻表紙の姿)、ここも個人的に実に胸に詰まるシーンの連続である。
この章は母との出会いに始まり、別離で終わる。ニナンナを離れたフシは老婆ピオランにより文字と言語を教えられる。つまり社会性を身につけ始めるのである。

第3章 家族と自我の芽生え
続く第3章では、家族と友情を通して、フシが人間性、社会性を獲得していく過程が描かれる。彼を成長させたのがグーグーという少年である。
グーグーは転がる丸太から少女を守って大怪我を負い、酒爺という老人に命は救われるものの丸太に潰され、二目と見れない顔になってしまった。彼はその顔を隠すため仮面を被っており自らを怪物と自嘲する。
グーグーはそんな辛い逆境や己の容姿に悩みながらも、けして折れることなくまっすぐ生きている。自分の好きなリーンに好かれるフシに嫉妬し、フシに兄貴風を吹かせたりするごく普通の男の子である。そんなグーグー、リーン、ピオランと恋人(!?)の酒爺という疑似家族との交流はフシを精神的に成長させていく。
ろくに話せなかったフシは彼らと過ごす四年のうちに、言葉も精神も外見もまるで人間の少年のようになっていく。
しかしフシを狙うノッカー(敵)に急襲され、フシとリーンを助けようとしたグーグー(彼もまたフシたちとの交流により心身ともに立派な若者に成長した)が命を落としてしまう。
ここまでにグーグーの苦悩やがんばりを共に体験してきただけに、読んでいて辛いものがある。(グーグーとリーンの関係の描き方も王道だが、とても良いのである)
フシはその成長に多大な影響を与えた最愛の兄・グーグーを失ったことで精神的なターニングポイントを迎える。

この物語は各章ごとにフシに影響を与える主人公を置く構成のようだが、彼らに共通するのは、人間のポジティブさ、もっと言えば逆境に負けない強い意志を持っているというところである。村にたった一人きりで残された生き残りの少年、生贄の少女マーチ、兄に捨てられ、不幸な事故がもとで怪物にされたグーグー、誰もが悲惨な状況にも負けず、腐らずにしっかり前を向いて生きている。
彼らに影響され人間性を獲得していくフシを通して見えるのは、生きる歓び、明日を生きようとする意志の尊さ、それらを肯定する人間賛歌である。

 

☆今後の展開の予想☆
フシの成長に重点を置くのであれば、誕生日→母→家族を得た次にたどり着くのは、自立・友情・恋愛・そして立志だろうか、あるいはアイデンティティの確立がそのゴールであるのかもしれない。物語全体を通してフシが自分を獲得する物語と読むことができそうなので、これからは長く暗い悩み・モラトリアムの時期に突入するのかもしれない。
万が一恋愛が描かれるのだとしたら相手は可愛い良い子がいいなあ。トナリちゃんは、なんか、違う笑
普段は少年姿だけど、実際は性別のないフシなのでなんとも言えないけど。

あるいはグーグーの死によって人間らしく成長したフシは、やっと主人公になる条件を満たしたともいえるので、今までの傍観者的な立ち位置から一転、周りに影響を与える存在に変わっていくのかもしれない(グーグー編まででも少しづつその兆候はあった)。
グーグー編でフシがモノローグデビューをしたし、これからは悩み放題笑
しかし恋愛についてもそうだけれど、フシにはあくまで、それこそ火の鳥のように人外の存在として人間の存在を観察してほしいとも思う。

 

☆今の所気になること☆
・古代の伝説の民族(イナンナのドキ人とタクナハの伝説の民族。2つの国の古代の伝説の民族は同じと思われる)
・悲しくても涙を流さ(せ?)ないフシ
・フシをつくった人は神様?やがて消える→神の世代交代?たしかにフシはなんでも生み出すことができるよね、ただ創造ではなく複製だけど。
・フシに影響を与えた人間で少年の幽霊だけが同行していない。
・少年以外はフシの不在に気づくことで夢から醒めている
・ピオラン無事でいてくれい。この老婆が予想以上に関わっているので、ストーリーを通して記録者になるのではと予想。文字の解読がかったるいので、ピオランのメモは読み取れていない。各自頑張れ。